~自分の指導を見直してみませんか?~
「一瞬で良い変化を起こす」~“カウンセリングの小さな工夫”ベスト50~
すべての教師とスクールカウンセラーのために
学校心理士スーパーバイザー 臨床心理士 公認心理師 半 田 一 郎
(月刊「学校教育相談」7月増刊号)
本書は、いわば「わが家の手間なし簡単おかずレシピ!ベスト50」というような本です。つまり「煮物は本来、こんなふうに作るものですよ」というレシピではなく、「こうやってつくると、(それなりに)おいしい煮物が簡単にできますよ」という提案です。
毎日の家で食べる食事が成長と健康を支えています。子どもへの支援も同じです。専門機関のカウンセリングも子どもに役立つのですが、子どもの生活の場である学校の中で行われる支援やカウンセリングこそ、子どもの成長と健康を支えているのです。
≪面接中盤(理解編)≫
面接では、子ども自身や子どもの置かれた状況を理解することが必要になってきます。
理解を深めるためには、子どもから話をよく聞くことが基本になります。しかし、子どもの話は、子どもが自分なりにとらえた状況について終始することがほとんどです。こちらが子どもを理解するために必要な情報が、子どもの話から得られるとは限りません。子ども理解のために必要な情報を得ていくための工夫が求められます。
21 本当にイヤなものを理解する
子どもが直面している問題は、大人の目からは単純に見えるかもしれませんが、大人のとらえた問題と子どもの実感とはかみ合っていないこともあります。本人もよく分かっていないことがあります。子ども本人の感じていることに基づいて、直面している問題を理解していくことが大切です。
例えば、「算数がイヤだ」という子がいます。ところが正確にとらえると、算数がイヤなのではなく、イライラしてしまうような活動が嫌いだとしたら、対処法は大きく異なります。
22 不思議がってみる
子どもを支援するときには、子どもの行動や考えの理由を知りたいと思うことがよくあります。理由を聞こうとして、×「どうして○○なの?」と質問することがあると思います。一般に、「どうして○○なの?」という質問では、質問された側が非難されたとか否定されたと受け取られ、子どもからの自然な反応が得られにくいと考えられます。
こんなときは、◎「どうして○○なんだろうねぇ~…」と不思議がってみることをすすめます。一緒に考える姿勢をつくることが大切です。
23 “そのあと”どうしたかを聞く
子どもからの相談を聞いていると、出来事のいきさつについて、最後のほうのことは語られないことが非常に多いと感じます。語られていないその先の時間に目を向け、子どもがその時間をどう過ごしたかを聞くことも重要です。
子どもの話を聞いていくと、表面的には混乱した激しい感情が生じていることがあっても、その背後には、孤独や自己嫌悪、悲哀などの感情が隠れていることが多いものです。子どもが語るエピソードの“そのあと”どんなふうに過ごしたかを聞くことによって、隠れている子どもの姿に触れることができます。その時間の子どもこそ、サポートを必要としていると感じます。
24 細かな内容は( )でくくって受け取る
子どもによっては、細かなエピソードを途切れずに話してきて、こちらの理解が落ち着かないことがあります。例えば、友人関係のトラブルなどの相談の場合、きわめて込み入った話になることがあり、こちらの理解が追いつかないことがあります。
こういった場合は、語られている内容を丁寧に理解する必要はありません。話をきちんと聞いて理解することが重要と考える方が多いかもしれません。しかし、事実関係や出来事よりも、話している子ども自身の心の動きが一番大切なのです。出来事や人間関係そのものは、思いどおりにコントロールすることができないからです。中身に深入りせず、子ども自身がどう思うのか、どう感じるのかということを焦点にして話し合っていくことが重要です。
25 否定的な内容は、できるだけ細かく具体的に聞く
子どもの相談を受けていると、同級生や担任の先生、学校に対して否定的なことを言うことがよくあります。一般的には、人を非難することはよくないので、否定的なことを言うことをやめるように諭します。しかし、指導して否定的なことを言わなくなったとしても、子どもの中にある否定的な気持ちが変わったわけではありません。対処ができることには適切に対処し、できないことについては心の整理を進めていく必要があります。そのためには、言わせないようにさせるのではなく、より具体的に詳しく語るように促すことが重要です。
26 本人がつぶやくような言い方で質問する
学校を欠席がちになっている子どもの話を聞いていると、「学校のどんなところがイヤなの?」と質問したくなります。そういった場合、こちらの頭の中に生じた疑問をそのまま質問するのではなく子ども自身でつぶやくような言い方で質問することをすすめます
例えば「こんなところが学校に中で特にイヤだなぁ…、とかってあるかな?」などと、質問ともつかないような雰囲気で投げかけてみます。もし、その言葉を受けて、「エエ~、イヤなところは…」と語り始めたら非常に良い展開です。
そもそもカウンセリングは、尋問や取り調べではありません。こちらが子どもを理解することよりも、子どもが自分自身で自分を理解していくことが重要です。そのため、情報を集めるために質問するのではなく、子どもが自分を見つめるように促す質問をすることが重要です。
27 どんなときに聞く?
子どもをめぐって何らかのトラブルが生じたときには、その背景や理由を知りたいと思うものです。しかし、子どもに背景や理由を質問しても、今までに話されたことやすでにわかっていることの繰り返しになってしまい、先に進めなくなってしまうときがあります。
こういった場合は、例えば「今日は、どんなときに、イヤなことを言ってきたの?」と限定して聞いてみることをすすめます。そうすれば「○○の時間に…」と返ってくるかもしれません。そうすれば「○○の時間の何をしているときにイヤなことを言ってきたの?」とさらに詳しく聞いてみることができます。そこから背景や理由の理解につなげることができます。
28 つながりをつくる
学校現場で子どもを支援していると、子どもが学校生活の中で困難に直面しているのではなく、家庭生活の中で困難に直面している場合があります。そういった場合、こちらのサポートが子どもの日常生活の中まで届かないと感じることがよくあります。教師やスクールカウンセラーであっても、すべての子どものすべての場面で必要なサポートを行うことはもちろん不可能なことです。しかし、一方で、子どもがサポートされていない場面でこそ、子どもに届くサポートができないだろうか、と感じることがあります。保護者を変えようとするのではなく、子どもをサポートしていくことを工夫しなくてはなりません。
29 「知らない」ということを強調する
子どもと関係を築いたり内面を理解するために、子どもの好きなアニメや小説やアイドルなどについておしゃべりすることは非常に役立ちます。しかし、ここ数年、さまざまなアニメやアイドルが誕生してきています。子どもの話は、名前すら聞いたことのない作品やアイドルが登場することもよくあります。子どもが興味を持ったり好きになったりする作品はきわめて幅広く、われわれがあらかじめ知識を得ておくには限界があります。
実は、作品やアイドルを知らないということは、子どもを支援する上ではプラスの面があります。相手が知らないからこそ、子どもは、自分の感じ方を話すことに不安が少なくなります。
また、アニメやアイドルだけでなく、学校のことについても「知らない」ということを活用することができます。多くの場合、すべての子どもの顔と名前や特徴を把握するのは不可能です。他の先生の授業や部活での出来事や雰囲気なども分からないことが多いと思います。知らないことを強調しつつ、目の前の子どもの感じていることに焦点を当てて話を聞いていくことが大切です。
30 学習した内容を具体的に聞く
子どもが授業に出て問題を解いたり、宿題の漢字ドリルをやったときに、「えらいねぇ~」などとほめるかもしれません。一般的には、「えらい」などと漠然とほめることよりは、「漢字ドリルをやっているんだねぇ」などの方が、行動を肯定的な雰囲気で指摘するだけで、十分にほめていることになります。
「ドリルの進み方が速いねぇ」「たくさん書いたね」などと速さや量に注目してほめることがあります。こういったほめ方をしていると、勉強にゆっくり取り組んでいるときや少ない量しか書いていないときには、ほめることができません。適切な勉強法は、子どもそれぞれで異なるはずです。
それでは、どんなふうにほめるのがよいのでしょうか。
具体的な学習内容に注目して、そのことについて話すのがよいのではないかと考えます。
「“検査”っていう字を習っているんだ。ケンっていう字はたくさんあるから、どのケンかわからなくなったりするよね。」などと言葉をかけます。その声のかけ方が温かく肯定的であれば、学習するという体験そのものがプラスの体験として感じられるのではないかと考えます。体験が肯定的に感じられることによって、次の活動が促されます。
不登校の子どもも同じです。家で勉強したなどと報告があることも多いと思います。そんなときは、具体的に何を勉強したのか、聞いてみることをすすめます。例えば、「漢字」と答えたとします。そうしたら、「一文字でいいから、昨日やった漢字で何か覚えているのはある?」と聞いてみます。一瞬思い出したり、そこから発展して空書きしてみるなどのやりとりが、子どもの漢字練習の体験を共有することにつながると感じます。
48 子どものそばに行く
子どもの心理的なサポートのためには、大人は子どものそばにいることが重要です。子どもは、身近な大人との関わりの中で身体からの安心感・安全感を体験し、それを基盤として助長していきます。安心感・安全感というものは、基本的に身体的なものなのです。乳幼児は文字通り大人に体ごと抱かれ、心もサポートされます。少しずつ成長するにつれて、身体的な接触は必ずしも必要ではなくなりますが、大人の存在やかかわりを身近に感じることによって、安心・安全を感じるのです。つまり、子どもをサポートするには、「子どものそばに行く」ことが非常に大切です。
大人の都合に基づいて、子どもを動かそうとする働きかけは、子どもの心のそばまで行ったことにはなりません。子どもの心の動きを感じ取り、つかず離れずの距離を保つことが求められます。そして、大人主導ではなく、子どもの動きに合わせて働きかけたり、子どもの動きを引き出すように働きかけたりすることで初めて、子どものそばに行ったことになります。
≪まとめ≫
子どもを変えようとすると、アドバイスをしたくなります。ときには、アドバイスをしないことも大切です。子どもが自由に反応し、行動し、振る舞えることが重要です。その点から考えても、アドバイスは逆効果の面があります。本書では、可能な限りアドバイスを避けるような工夫を紹介しました。アドバイスを避けつつ、子どもの相互作用を保っていくことをおすすめします。
繰り返しになりますが、子どもを変えようとする必要はありません。子どもは支援する側との相互作用のある関係の中で自然に育っています。子どものそばにいて、子どもの自由をサポートするようなかかわりを続けることが重要です。
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