「養育格差社会」
① 問題のある家族・親子関係で育てられる子どもたち
家庭として最悪なのは機能不全的家族である。子どもを虐待にさらしたり、駐車場に置いたままパチンコをしているような親である。親自身が未熟なため適切な関わりができす過放任の状況で育てられた子どももいる。このような状況で育てられると、子どもは深い問題や傷を抱えて育つ。また、荒れた性格にはなり得ても健やかな元気な子にはなりにくい。今述べたほど深刻な子育て状況ではないが、神経症的な子を生む親の関わりもある。家庭自体は安定しているものの、共感的能力の低い親であったり、何らかの期待や強い思い込みがあったり、逆に不安が強くおろおろしながらの子育てであったり、溺愛しすぎで何でも子どもの要求をかなえすぎたりするような親である。このような親に育てられると、萎縮した子ども、こだわりの強い子ども、不安の強い子ども、他者に過敏に反応する子ども、自己中心的な子どもに育ちやすい。長じてひきこもりや社会不安障害(対人不安の強い子)になりやすい。
② 現代の最大公約的な家族(平均的な家族)
それなりに安定した家庭であり、母親が不安を抱きながらも、子どもにできる限りのことをしてやろうと、頑張って子どもを育てている家族である。今や豊富な家電により負担のある家事から解放され、子育てに十分な時間と世話ができる時代となった。しかも、家族は夫婦よりも親子関係が中心であり、家族自体が子ども中心に回っており、子どもは常に親に世話をされ続け、お稽古ごとでも大人に世話をされ、指示を受け、与えられたシステム内で過ごすことになる。親の世話と大人のシステム、そして、モノと情報に溢れた状況で子どもは育つ。大切に飼われている羊のような生き方(言わるままに素直に枠の中で生きている)ともいえるし、極端に言えば、自分から自発的に動かなくとも、全てを他者が与えてくれてスクスク育ち、手足ばかりがツタのように伸びていく植物のような生き方ともいえる。それが、素直で、優しく、指示待ちで、親離れせず、穏やかで無理や冒険をしない子どもを育てることになる。「さとり世代」と呼ばれる若者が育つ家族状況ともいえよう。そのような状況で育てられる子どもが大多数になっている。
③ エネルギーの高い一流の子どもを育てる家族
この家族は、プロテニスプレーヤーの錦織圭君のようなスーパースターを育てる家族だ。
長男・博氏は画家、次男・明氏は作曲家、末娘の真理子さんはバイオリニストと全ての子どもを一流のレベルに育てた千住文子氏の書かれた『千住家の教育白書』、プロテニスプレーヤーの杉山愛さんの母親である芙沙子氏が書かれた『一流選手の親はどこが違うのか』は、共にエネルギーの高い子を育てる模範となる様子が描かれている。共通しているのは、子どもは授かりものと考え(決して自分の延長としてではなく)、独立した存在として丁寧に見つめる姿勢があることだ。それゆえ、子どもたちの個性もよく理解している。子どものペースを無理なリズムに合わせようとしたり、親の不安や期待から過剰な関わりをせず、子どもたちの好奇心を大切にし、それらを伸ばし、高いエネルギーをもってサポートしている。遊びも子どものペースで十分に遊ばせている。そして、何より子どもとのコミュニケーションを大切にしている。
芙沙子氏によれば、杉山愛さん、錦織君、石川遼君などの一流選手に共通しているのは、幼児期は、家族ぐるみで何らかのスポーツを楽しまれており(家族の共通の話題があることでコミュニケーションも豊かになる)、子どもが興味の持ちそうなところに出かけたり、興味を持てばさまざまなことをさせていることだ。たとえば、愛さんは、テニス以外にも、体操、フィギュアスケート、クラシックバレーなどを学童期までは楽しんでいた。錦織君もスイミング、サッカー、野球、ピアノまで楽しんでいたようだ。そして10歳前後で、もっとも興味あるスポーツに専念しはじめ、親はそれを高いエネルギーでサポートし続けた。
≪元気な子どもを育てる条件≫
若者・子どもが元気であった時代状況の要因、現代でもエネルギーが高く、第一線で活躍している子どもを育て上げられた要因・条件を考えてみたい。
① 貧困と理不尽(不条理)体験があること(親は与え過ぎない)
② 緩やかな生活空間・ゆっくり流れる時間の中で過ごすこと(テレビやパソコンのつけ
っ放しは控え、じっくりと何かに関われせることが大切)
③ 群れの中で多様性を身につけることが大切(幼児期から学童期にかけて、自由度の高
い環境で群れ(集団)体験をさせることが大切)
④ 現代の方が有利な条件(一人の子どもに時間と世話が充分にかけられる。安全な場所
が保障されている。)
結論的に言えば、荒ぶる野生児のような元気な子どもが育つ環境ではなくなったし、それを目指す必要はない。それよりも、母親との密着状態が大人になっても続く状況であり、安定感のある子どもは育ちやすい。そして、飽和した社会には飽和した社会であるからこそ、多様なシステムが存在するので、それらを親は賢く利用することができる。子どもは用意されたシステムを自分なりに選び取り、群れ体験や自由な遊びができる環境を得て、主体的に目標を目指すような子になれば、エネルギーの高い子に育つのではないか。少なくとも、与えられた枠組みの中で元気に頑張る芯の強い子は育つと考えている。そういう時代なのだ。
~親の養育態度で子どもの人生が決まる社会~
青山渋谷メディカルクリニック名誉院長 鍋谷 恭孝
月間「生徒指導」1月号より (牧野要約)
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