2018年11月8日木曜日

花だより ダイモンジソウ 母の書き置き


 尾木ママの『叱らない』子育て論
 子育て上手な母親の書き置きは「かならず美しい」 
“下やしきにいます。おやつはかまどのおナベの中、お手伝いに来てください。”
                               母より 
これは、私が子どものころに母が毎日のように私にあてて書いてくれた書き置きのひとつです。
◆食卓の上に乗った小さな黒板に楷書でていねいに書かれた文字。“来”という感じが少しくずしたような文字になっていて、「大人の文字って変なの?」なんてよく思っていたものです。
 私は滋賀県の関ヶ原にほど近い、伊吹山のふもとの農村で生まれました。小学3年生のときに祖母が亡くなってから、勝手口を開けた瞬間に聞こえてくる、祖母の「直樹、おかえり!」の声は聞けなくなったけれど、母の書き置きは、その寂しさをふっと和らげてくれました。
◆ランドセルを放って、すぐにナベのふたを開けると、書き置き通りにふかしたイモが並んでいて、新聞紙で作った袋に包んで、ズックをひっかけて、母が畑で仕事をしている“下やしき”まで、一目散に走っていく。「お母ちゃ~ん!」もんぺ姿の母の姿を見つけてそう叫ぶと、母はクワを持つ手を休めて、笑顔で私を迎えてくれました。子どものころを思い起こすと、あの安心感と、母の美しい文字が懐かしく蘇ってきます。
◆今では、携帯メールで「おかえりなさい。お昼は冷蔵庫に入っているから、レンジでチンして食べて。塾、頑張ってね」こんなやり取りをしています。簡単、確実、便利です。それでも、やっぱり母親の手書きが待っていてくれたら子どもはうれしいんです。メールはあくまでも文字で情報を伝えているだけ。そこに、ひと文字ひと文字に書き手の気持ちは込められないでしょう。
◆携帯電話は、情報伝達という意味では確実だけど、コミュニケーションとしては、不確かなものです。だから子どもを迎える書き置きは、見慣れた母親の文字が安心感を与えます。安心感の中で育った子どもは、必ず伸びていきます。 


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