富国有徳への道
「この国の人は、今まで発見された国民の中で最高であり、日本人より優れた人々は異教徒の間では見つけられない。彼らは親しみやすく、一般に善良で、悪意がない。驚くほど名誉心の強い人々で、他の何よりも名誉心を重んじる。大部分の人は貧しいが、武士もそういう人々も貧しいことを不名誉とは思わない…」
1549(天文18)年、キリスト教布教のため日本にやってきたフランシスコ・ザビエルが、本国に送った手紙である。
1856(安政3)年、通商条約を結ぶために来日したハリス提督の日記には、「彼らは皆よく肥え、身なりもよく、幸福そうである。一見したところ、富者も貧者もない。これが人民の本当の幸福の姿といえるだろう。私は時として、日本を開国して外国の影響を受けさせることが、この人々の普遍的な幸福を増進する所以であるかどうか、疑わしくなる。私は質素と正直の黄金時代をいずれの他の国よりも多く日本において見出す。生命と財産の安全、全般の人々の質素と満足とは、現在の日本の顕著な姿であるように思われる。」
フランスの詩人ポール・クローテルは、1921~1927(大正10~昭和2)年まで、駐日大使を務めたが、日本の敗戦が濃くなった1943(昭和18)年、パリで言った。
「日本は貧しい。しかし、高貴だ。世界でどうしても生き残って欲しい民族をあげるとしたら日本人だ。」
私たちの祖先は勤勉・正直・親切・謙虚・素直・感謝といった徳目を規範に、幾世紀も暮らしてきた人たちであった。外国の人たちの証言は、そのことを明らかにする。
さて、昨今は隔世の感と言わざるを得ない。この日本人の美徳を取り戻し、後世に渡さなければならない。私たち一人一人がこの美質を涵養し、発揮した時、日本は真に豊かな国となる。富国有徳とはこのことである。
先覚者安岡(やすおか)正篤(まさひろ)師の言葉である。
「人々が己一人を無力なもの、ごまめの歯ぎしりと思わず、如何に自分の存在が些細なものであっても、それは悉く人々、社会に関連していることを体認して、まず自らを良くし、また自らの周囲を良くし、荒涼たる世間の砂漠の一隅に緑のオアシスをつくることである。家庭に良い家風を作り、職場に良い気風をつくれないような人間が集まって、どうして幸福な人類を実現できましょうか。」
富国有徳への道は一己より始まることを私たちは忘れてはならない。
~月刊「致知」特集『富国有徳への道』総リードより~
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