【平成19年度 斜里町立朝日小学校 校長室花だよりから】
《特別支援教育について》 ~信頼と教育 母親の思いを受け止める~
教頭で赴任したときの最初の仕事は、特学の開設準備でした。母親は、「うちの子は、少し言葉が出るのが遅いだけです。」と言いましたが、かなり重度の障がいを抱える児童でした。就学指導委員会は、施設の整った大きな学校の特学入級を勧めましたが、保護者は強く地元の普通学級への入学を希望したのです。それから何度も話し合いを重ね、地元の学校に特学を新設することになりました。
4月からの学習は、担任とその子との闘いでした。そして、半年が過ぎた頃から、少しずつ言葉が話せるようになりました。1年経った参観日、母親が目にいっぱい涙を浮かべながら語りました。
“農家の嫁の辛さ、嫁と姑の関係、農作業と家事と育児の毎日、「こんな子を産んだあんたが悪い!」と言われ、この子を連れて実家に戻ろうと何度思ったことか、そして、見る夢はいつも同じ。この子が笑顔で、私に『お母さん、あのね・・・』と話しかけてくれる。他の子と一緒に楽しそうに遊んでいる姿。何度も何度も見ましたが、それが少しずつ現実になろうとしています。これまで誰にも話すことができなかったんです。先生、ありがとうございました。”
やっと心を開き、学校との信頼関係を築いた瞬間でした。
「うちの子を若松小学校に入れて下さい。」
校長として最初に赴任した北見の若松小学校は特認校です。特認校を特別支援の学校だと思い、年に何人かは入学相談に来ました。
「うちの子は、○○の障がいをかかえています。街の大きな学校に通うときっといじめに合います。若松小学校は、少人数で一人一人を大切にした教育をしてくれると聞きました。校長先生、どうかお願いです。うちの子を入れて下さい。」と泣かれて頼まれると、私も胸が熱くなり、「そうですか・・・。」と言ってしまいそうになります。ところが一校長が決められることではありません。特認校の趣旨が変わってしまうからです。こちらも声を詰まらせながら、特認校の趣旨を説明してお断りしました。
逆に、我が子の障がいを認めようとしないケースもあります。そうした親を説得することが管理職になってからの私の大きな仕事でした。
私は、教育実習で大学で「養護学校2種」の免許を取るために2週間の実習経験があります。重度の障がいを持つ児童が通う学校でした。実習の最終日に「ああ~、これで終わった。大変だったけど、いい勉強になった。」と実習生同士で話していると、指導教官が「君たちは、今日で終わりだけれど、親は一生この子たちと共に生きていくんだ。この子たちが、この教室にいるときだけが、親がホッとする時間なんだ。君たちには、そんな親の気持ち、特に母親の気持ちは、分からないだろうなあ。」と話されたのです。この言葉は、30年以上経った今でも覚えています。
子どもはどの子も敏感です。自分が担任の先生から好かれていないと思っていたら、そこに教育は成り立ちません。子どもは、好きな人や尊敬する人からしか学ぼうとしないからです。つまり、“信頼されている”“よさを認めてくれている”“自分の存在を見ていてくれる”という心がなければ教育は成立しないのです。それは親も同じです。特別支援教育も同じです。特別支援教育が始まり、私たち教師には、正しい認識とスキルアップ(適切な指導法を身に付ける)が臨まれていますが、根底にある「信頼関係づくり」をまず大切にしなければならないと改めて感じています。「信頼」は、「共感」することから始まります。
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