2019年11月16日土曜日
花だより 少年鑑別所の役割と最近の非行少年 ミセバヤ
~令和元年度 北見方面少年補導員等地域カンファレンス~
(牧野要約)
少年非行は減少しているが、非行内容の変化が心配
【講演】 「少年鑑別所の役割と最近の非行少年」
札幌少年鑑別所釧路少年鑑別支所 所長 田畑 賢太
■「鑑別」の目的
「その少年がなぜ非行をしたのか、原因や問題点を明確にする」ということと、その上で「どのような働きかけをすれば、再非行を防げるか、少年自身の処遇の方針や実際の指導の内容を決めていく」ことです。
最終的に処分を決めるのは裁判官ですが、この子をどのように指導してほしいかは鑑別所の心理技官がいろいろ検査して、鑑別結果通知書を作成して裁判所に提出します。
■鑑別の流れ
鑑別所は、そんなに長くいる場所ではありません。少年院は1年くらい中で生活していきますが、鑑別所はせいぜい1ヶ月くらいしかいることができません。1ヶ月の間に鑑別を行い、審判を受けて、少年院に行くのか保護観察になるのか、場合によっては、刑務所に行くか児童相談所に行くのか、いろいろな処分が決まります。
「面接」+「心理検査」+「行動観察」→「鑑別結果通知書」
*再非行防止をする上では、まず「鑑別」をして、原因や問題点をつかむことが大切という考えで国の制度として非行少年対策があります。
その子どもによって必要な働きかけが違うので、まず、そこを見定めることが大切です。少年と関わる中で指導して、その指導が効く子なら問題はないですが、何で効かないのか分からない子には、何が原因で非行をしているのかを考える視点が重要です。
■最近の非行少年
非行少年の数は年々減っています。少子化のペースをはるかに超えて減っているので、少子化だけではおそらくないと考えます。最近は、鑑別所や少年院の定員を割っています。
質的にはどう変わったのか。暴走族がいなくなりました。私が就職した頃(平成15年頃)には、まだ暴走族が多く、総長が鑑別所に入ってくると、その子分たちが何十台とやってきて、警察24時の子ども版みたいなことがありました。
■集団から単独へ
以前は少年院に入った子どもは、不良集団と関係しているのが多かったのですが、最近は減少しています。
もう一つの傾向として、少年犯罪が集団ではなく、単独犯が多くなっています。昔は傷害事件が多く、暴走族の抗争等といった集団暴行でしたが、今はそういう事件はほとんど見なくなりました。同じ傷害でも代わりに増えているのは、母親に対する家庭内暴力や交際相手へのDV、そういう単独犯の事件が増えています。
■非行内容の変化
非行の内容自体も変化しています。窃盗が多いのはどの時代も変わりませんが、大きく減っているのは道交法違反です。暴走族がいなくなったので当然の結果です。もう一つ減っているのは覚醒剤です。特に女子です。やくざとか不良の先輩とかに誘われて、だんだんと薬にはまっていくパターンが女子には多かったのですが、最近はずいぶん見なくなりました。その明確な理由はわかりませんが、おそらく不良集団がなくなったことが関係していると思われます。
逆に増えているのが詐欺です。いわゆる特殊詐欺(オレオレ詐欺)の受け子です。その特徴として、下っ端の下っ端で何も知らない子たちが多いです。使い捨ての駒みたいなもので、特殊詐欺は増えていますが、不良集団と関わりが深い少年はあまりいません。
■単独の性非行の増加
じわじわ増えているのが男子の性非行です。共犯ありと共犯なしの性非行を比較すると、共犯ありが大きく減っていて、共犯なしの性非行だけが増えています。昔は暴走族の中での集団強姦やイベントサークルの中での準強姦みたいなことが多かったのですが、最近はすっかり見なくなって、代わりに一人で露出するとか、下着を盗むとか、単純に好きに抱きつくとかそんな単独の性非行が増えている印象があります。
■非社会的な子どもの増加
少年院に入ってくる子どもたちのうち何らかの精神障害(発達障害)をもっている子どもの割合が増えています。発達障害については、新しく法律ができて認知度が高まり、割合として見えるようになったのだと思いますが、実感としても対人関係を持てない子どもがすごく増えているように感じます。
そのような子どもの特徴は不良交友どころか、交友関係もなければ家族との関係もない、引きこもりじゃないけれど誰とも関われていないことが多いです。
これまで少年鑑別所に入ってきて大変なのは、反抗的な子どもでした。今は指導してもいまいち言葉が通じないというか、そもそも対人関係が持てないので対応に困る子どもが増えてきました。鑑別所に入ってくる少年だけでなく、社会全般に人とうまく関われない非社会的な子どもが増えてきている印象です。
■反社会性から非社会性へ
まとめると近年の非行少年は、大幅に減っていますが、抱えている問題性は、反社会性ではなく非社会性になっていることです。
少年鑑別所が相手にしている非行少年は、昔は奇抜な髪型をしていたり、歩き方からして違ったりして、一見して不良と分かるような子どもが多かったのですが、そのような子どもはどんどん減ってきています。
代わりに増えているのが「生きにくい子ども」です。そして、周りから見て「対応が難しい子」です。これだと非行少年かどうかわからなくなってきます。難しいのは家庭内暴力とか逮捕まで至らない問題が増えているということです。尋ねても、動機とか問題がよくわからない子どもが多いのです。昔は「なんで殴ったんだ」と聞くと「あいつがけんかを売ってきたからだよ」と、まあわかりやすいところがありました。でも今は、「よくわからないけど頭が急に真っ白になって…」みたいに、聞いても動機がよくわからず、どうしたらいいかわかりにくいという子どもが増えているのです。
■まとめ
現在、非行少年の数自体はすごく減っています。だからと言って世の中がバラ色になったわけではありません。おそらく虐待とか、何らかの障がいを抱えて生きにくさを感じていて困っている子どもは減っていないと思います。問題の出し方が非行ではなく、違う形で、非行まで至らないような家庭内暴力とか、ちょっとした性的行動とか、引きこもりとか、いろいろな方法で出ているのだろうと思います。
今までは待っていたら問題を抱えている子どもたちが来るというのが少年鑑別所でしたが、最近は待っているだけでは本当に困っている子どもたちは来ないという思いがあります。釧路の鑑別所でも旭川の鑑別所でも構いませんので、困ったケースがあれば相談いただければと思います。
平成28年3月 北見市立北小学校退職、その後、北見市教育委員会教育専門相談員、令和2年4月から、訓子府町教育委員会教育専門員 令和3年4月から、訓子府町認定こども園長
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