「敏感で傷つきやすい子(HSC)」について知ろう
弘前医療福祉大学教授 小 玉 有 子
(月刊「学校教育相談」9月号)
~昨今は「鈍感力」が多くの人にとって強みになっています。しかし、「鈍感力」を磨きたくても自分の特性から逃れられず、どんどん自己肯定感が低下してしまう子がたくさんいます。~
敏感にいろいろな情報をキャッチしてしまうために、些細なことにもビクビクして日々を過ごしている子がいます。教室ではいつも誰かに見られているようで緊張しているとか、グループ作業すると細かいことが気になって集中できないとか、さまざまな困難さに直面しています。さらに、「気にしすぎだよ」「大げさだよね」「面倒くさい人」等、友だちや教師からのネガティブな表現に、傷ついているのです。
世の中には、繊細な敏感な感受性の高い人は、5人に1人くらいの割合で存在していると言われています。また、自閉傾向がある人たちにも感覚過敏がみられます。最近ではエンパス体質(自分のことのように、相手の気持ちが理解できる)という言葉もよく聞かれるようになりました。そこで、「敏感で傷つきやすい子(HSC)」について、基礎的な情報を整理してみました。
HSPとHSC
HSP(person)は、日本では「とても繊細な人」「敏感すぎる人」「ひといちばい敏感な人」等と訳されていて、子どもの場合はHSC(child)と呼ばれています。
遺伝的な特性としての敏感さを持つと言うことで、これは生まれつき持つものであり、正常な特性です。病気ではありません。人口の15~20%の人にみられます。
生物学的には、この特性は人間だけでなく、昆虫から霊長類に及び100以上の種にもみられるということがわかっています。そして、どの種についても、刺激に対して「より敏感に反応するもの」の比率はだいたい同じで、全体の15~20%だと言われています。HSP・HSCを障害とはっきり分けて考えていますが、自閉特性と区別するのが難しいケースや両方の特性を重視して持っている場合も考えられるので、十分な観察が必要です。
4つの特性「DOES」
D:深く考える O:過剰に刺激を受けやすい E:共感力が高い S:些細な刺激を察知する
自閉傾向に見られる感覚過敏
・触覚過敏 ・聴覚過敏 ・視覚過敏 ・臭覚過敏 ・味覚過敏 ・食感過敏
HSP,HSCと区別するためには、発達障害の特性も十分理解しておいた方がいいでしょう。
鈍感力と敏感力
渡辺淳一氏が『鈍感力』というエッセイを書いて以来、「鈍感力」という言葉はすっかり市民権を得ました。「鈍感力」とは、些細なことを気にせずに、ポジティブに物事を考える力のことを指します。他人の視線や世間での自分の評判などをいちいち気にしすぎるのではなく、自分に自信をもって堂々と過ごすための能力です。昨今は「鈍感力」が多くの人にとって強みになっています。
しかし、「鈍感力」を磨きたくても、自分の特性から逃れられず、どんどん自己肯定感が低下してしまう子もたくさんいるのです。「敏感(繊細)は、文化によって異なった評価を受ける。敏感であることに価値を置かない文化では、HSPは低い自尊心を持つ傾向にある」と言われています。
しかし、例えば、ライオンに狙われているウサギを想像してみてください。ライオンの視線や気配、足音等に敏感に気づくことができる個体こそ、生き残る可能性が高いのです。
生き残るウサギになろう
HSCの子に「あなたの脳は、他の人より敏感で、いろいろな情報をキャッチしすぎるのかもしれない。でも、あなたの敏感力はあなたの強みでもある。気になる視線が安全かどうかを判断できるのもあなた自身です。」と話しました。同級生の視線を感じたら、顔をあげてその視線の元を確認し、○か×か、判断してみることを提案しました。「もし、あなたがHSCなら、あなたは生き残るウサギになれるよ」 その子は、はじめて笑顔を見せました。
子どもたちが「敏感力」を強みにするために、そして自己肯定感を育むために、われわれ大人はどのように支援できるのでしょうか。どのような言葉かけをすべきなのか、教師も保護者も、今一度立ち止まって、考えてみる必要がありそうです。
(牧野要約)
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