2019年7月4日木曜日

花だより エゾカンゾウ 対人関係がうまく築けない子 “急増!”

  子どもの心に迫る  対人関係がうまく築けない子 “急増!”
                 法政大学 教授 渡辺 弥生
 「対人関係のトラブルを予防するソーシャルスキルを育てる」より
●運動会の練習中に整列の指示に反発して教師を殴った。(小6男子)
●悪口を言われたと思って1年生の顔を殴った。(小3男子)
●着席するように教師から指導されて腹を立て、教室の窓ガラスを割った。(小5男子)
 このような事件が全国的に増えているそうです。原因は、「忍耐力」「コミュニケーション力不足」により、自分の気持ちをうまく表現できないため暴力に走る。「規範意識の低下」「家庭教育の問題」「暴力的なメディア」などの原因ではないかという意見があります。
 暴力に発展するまでもないが、「ちょっとしたトラブルからすぐパニックになる子」「自分の気持ちを相手に伝えることができない子」「友だちとうまくやっていけない子」が増えています。
 自分の気持ちや考えが相手に伝えることができず、自分の心の奥におしこんでしまったり、逆に暴力やいじめなどの陰湿な攻撃行動をくわだてたりする。友だちがほしいという気持ちは強いのに、素直に表現できずに、相手の気持ちを勝手に解釈してしまい、葛藤を抱きやすく、すぐに傷ついてしまう。本来、健全な対人関係は、親子関係、兄弟関係、仲間関係、教師との関係、地域の人々との関係などさまざまな対人関係の中で教えられ経験を通して育まれるものですが、今の子どもたちには、対人関係が希薄で、自分たちでトラブルを解決する力が十分育まれていないのです。
 友だちにすぐ暴力をふるう子に「やさしくしなさい」、すぐ泣く子に「泣いてはダメ」と一方的に叱っても、その子は次から「やさしくしよう」とか「泣くのはよそう」とは素直に思わないのです。
 何度言ってもできない子どもたちの中には、次のような3つのタイプがあります。
*タイプ1~どうすればよいか知識がない
 「やさしくしなさい」と叱られても、どのようにふるまえば「やさしい」行動なのか分からなければ、その行動は出てきません。(例:「だいじょうぶ?」と声をかけてあげる。)こんな子には、具体的な行動を具体的な知識として教えてあげることが必要です。
*タイプ2~知識はあるが行動ができない
 「ごめんね」と謝ればいいのにその勇気はない。自信がない、恥ずかしい、といった意欲や気持ちのところでもう一歩行動にできない。「さあ、やりなさい」と背中を押しても、押せば押すほど引っ込み思案になってしまう。このタイプの子どもは、「やれたためしがない」「自分にできるとは思えない」という心情が強いのです。普段から少しずつ「○○さん、えらいね。よく○○やったね」と声をかけ、できそうなチャンスの場を与えてほめてやることが大切です。
*タイプ3~知識もあり行動もできるが状況把握ができない
 知識もあり、行動もできるのに対人関係でトラブルが多い子がいます。例えば、友だちが何かもめている最中に「仲間に入れて」と声をかけても彼らは聞いていない。そんなとき「ちゃんと入れてって言ったのにみんなは私を無視した」と先生に訴えてくるのは、このタイプの子です。他の人の気持ちに気付かせる対応が必要です。
□□□「思いやり」の発達を理解する□□□
◎幼児期自分と他人の区別が明確でない。自分も他人も同じことを考えていると思う。
◎小学校低学年~他人と比較して、自分と他人の違いが分かってくる。ただし、笑っているからうれしい。泣いているから悲しいといった程度で、相手の心情を推し量ることはできない。
◎中学年~他人の視点をかなり推測できるようになる。A君は、ぼくのことをきっと○○だと思っている。ぼくは、A君のことを○○だと思っているだろう。と互いの気持ちを推測できるようになる。
◎高学年~「私」と「あなた」といった二者関係だけでなく「彼」「彼女」といった第三者の気持ちを推測したり、自分自身を客観視することができるようになる。
◎中学生~学級、学校、社会、日本人として、といったようにさまざまな立場に立って考えられるようになる。「思いやり」とは、自分の視点だけでなく、さまざまな人の視点を理解する力といえます。
 この発達レベルが低いと何かトラブルがあったときに、他人を変えようとするもの(他者変容思考)が強いと暴力をふるい、自分を変えようとするもの(自己変容思考)が強いとその場から逃げるという行動をとります。しかし、「思いやり」が発達すれば、他者変容思考は、「暴力」から「命令」「説得」と変化します。自己変容思考は、「逃避」から「従順」「妥協」へと変化するのです。最終的には互いのコミュニケーションを通して「調節」する行動をとるようになります。「思いやり」の心が育てば問題となる行動もなくなるのです。

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