なぜいま、アドラー心理学が教育現場で求められているか
~不登校の原因論を放棄し目的論に導いた心理学~
(有)ヒューマンギルド代表取締役 岩 井 俊 憲
月間「生徒指導」2020年4月号
《不登校には6大原因がある(?)》
1 母親が素直に喜べない思わぬ妊娠だった。
2 妊娠中ストレスが多かった。
3 難産だった。
4 母乳で育てなかった。
5 生まれた後のスキンシップが足りなかった。
6 父親が育児に協力的ではなかった。
不登校の相談に来た母親に尋ねると、この6つのいずれかに100%該当した。
ところが、精神科医で不登校の専門家である野田俊作先生は、この原因論を一蹴した。
野田先生に「不登校の原因は何ですか?」と質問すると
「知りません。知ってどうするんですか?」と答えたのです。
不登校の6大原因といったものは、学校に行っている子どもの家庭に尋ねても実はどれかに当てはまる。不特定多数の家庭を追跡調査したならまだしも、不登校の家庭だけ調べて「全員が該当するからこれが原因だ」とするのは科学的手続きとしておかしい。
そんな原因探しは役に立たないどころか、親を責めるだけで有害でしかない。より大事なことは母親を勇気づけることで、そのためには不登校の原因を探すより「いまから未来に向けて何ができるか」を考えることだ。
これは、過去に目を向ける原因論ではなく、未来志向の「目的論」から考えるというアドラー心理学の理論に基づく姿勢です。
《不適切な行動を取る子どもの4つの目標》
問題行動を起こすと、先生方は、「何が原因でそんな行動を取ったのか」と考えがちです。アドラー心理学ではそうではなく「どんな目的を成すためにその行動を取ったのか」を考えます。
*具体的にはどのような目的が考えられるか?
① 注目を得たい~先生や親の関心を引きたくて問題を起こす。
② 主導権争い~例えば、先生との関係が悪化したとき、学校や教室でその先生に負けまいとして反抗する。
③ 復習~例えば、先生に「傷つけられた」と感じた子どもが「傷つけ返してやる」として望まれない行動を取る。
④ 無気力・無能力のアピール~追い込まれた子どもがこれ以上くじかれないよう、無気力に振るまったり、自分の殻に閉じこもる。
子どもの問題行動を未来志向でとらえていくと、少なくともそこに目標はあるので、先生にも協力できる余地がある。
《問題行動よりも良かったことに注目する》
子どもの行動の「目的」を見据えていくなら、もう一つの大事なことがあります。問題行動ばかり見ようとせず、それ以上に子どもたちの「良かったこと探し」をして、そうした行動の目的もとらえていくことです。
《アメとムチで子どもを導くような教育をアドラーは批判》
体罰や脅しといった恐怖による指導は「長期的には教育上、何の効果もない」
アメとムチというのは、望ましい行動なら賞賛し、望ましくない行動なら罰を与え、望ましい行動の頻度が高まるようコントロールすることです。動物実験では有効性が確認された行動主義心理学のアプローチですが、人間は他の動物と同じように行動するのかということです。
人間の特性は、未来を見つめる力や、過去を顧みる力を持っていて、「いまここ」だけではない長い時間軸の中で生きていることです。このため、ただ問題行動を罰しても、望ましい行動に変容するとは限らないのです。その場では従っても将来罰せられない環境になれば豹変する,「面従腹背」の人になるかもしれない。過去に罰せられた恐怖を引きずり、行動を選べず凍りつく人になるかもしれない。動物実験では有効でも、人間の行動にそのまま適用できないのです。
教師が強引に子どもを従わせれば、もう反発を受ける時代なのです。つまり、先生が上からコントロールするような指導がいよいよ成り立たなくなってきたのです。
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