教えたことと身につけたことは別
辻村 哲夫(教育学者) 「教育展望」11月号より
新型コロナウイルスがさまざまな課題を白日の下に晒している。教育では、学校のICT環境整備の立ち遅れの実情をあからさまにしたのが典型例だが、「教師が教えたこと」と「子どもが身につけたことと」の違いを痛感させたのもその一つだといえる。
オンライン授業での指導の難しさ 家庭にいる子どもたちを学びに向かわせること自体難しい。まず教師はその日・その週の時間割を徹底させることにエネルギーを費やす。授業も絵や図などを見せて工夫して指導するが、すべての子どもが敏感に反応してくれるわけではない。分かっているのかいないのか労力がいる。そして、指導したことを理解していない子どもの存在を後で知るのである。
オンライン授業では、対面授業のときより丁寧に教えたつもりだったのに、子どもたちに十分伝わっていない、子どもたちに身についていないことが少なくなかった。
翻って、対面授業を考えると子どもたちの顔で分かっていると思ったのは、教師の思い込みで、教育内容の消化のため、一方的な授業、時間に追われた授業になりがちで、実はもっと深刻な事態が起こっているのではないか。
「教えたこと」と「身につけたこと」の乖離をできる限りなくす。このことは、教育改革検討の第一歩といわなければならない。乖離があればあるほど改革案は絵にかいた餅になってしまうからである。
新型コロナウイルスには、主観的な願望や恣意的な思い込みでは立ち向かえない。その抑止には科学的知見に基づく対応だけが有効なのである。子どもの発達段階、子どもの受容力を無視した教育は形だけのものになってしまう。実践の経験や子どもの医学的、心理学的な発達状況等を正しく踏まえて教育でなければ成果は上がらない。
このことを前提に教師はできるだけ多くの時間とエネルギーを直接子どもたちの指導に充てる。指導にあたっては教師はその指導力と創意工夫を存分に発揮すること、これ以外に子どもたちに真の力をつけられない。
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